君のための嘘
「畑中! この娘に食事を用意しなさい」


夏帆はこの女性が霧生家の為に仕方なくやっている事なのかもしれないとふと思った。


ベッドや食事を用意させるなんて、悪になれない証拠だろう。


やっと両手を縛っていた紐が外された。


縛られた紐が手首を擦り、ヒリヒリしていた。


夏帆が逃げない様に見張る畑中と呼ばれた男が部屋の隅にいる。


居心地が悪い……。


途方に暮れていると、食事ののった小さなテーブル付きのお盆が運ばれてくる。


「どうぞ、お召し上がりください」


年配の女性がそう言い、顔を上げ夏帆と目が合った瞬間幽霊でも見たかのように驚いた顔になった。


驚くほどそんなにひどい顔をしているのだろうか……。



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