君のための嘘
「早く電話してよ! してくれないのなら自分でする!」


苛立ちを抑えられない夏帆はベッドから降りようとした。


ラルフはそれを制した。


「明日は無理だ。ひとりで空港にだっていけないよ」


「行けるわ!」


「夏帆ちゃん!」


ラルフは夏帆の両手首を掴み、顔を近づけた。


「離してっ!」


「そんなに怖がらないでくれ、襲うつもりはない。しっかり食事をとり、元気になればいい。僕が君を元気になったと判断したらロスに帰すよ」


茶色の瞳でラルフは夏帆をじっと見つめてから、夏帆の膝の上にトレーを置くと、右手にスプーンを持たせた。





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