君のための嘘
「あの子は寝ているの? 顔を見たいのだけれど」


「今日は止めてください。まだ彼女は自分の立場を受け入れられていませんから」


「……わかりました。今日の所は帰りましょう」


祖母をエントランスまで見送ったラルフは戻ると、夏帆の部屋に向かう。


ドアのすぐ横にトレーが置いてあるのが目に入る。


食べ残しはなかった。


それを見て、ラルフはフッと笑みを漏らした。


良かった。食べなければ体力がつかない。


ドアを開けようとそっとノブを回した。


カギはかけられていなかった。


無駄だと分かっているのだろう。


顔を覗かせると、夏帆は眠っているようだった。



< 368 / 521 >

この作品をシェア

pagetop