君のための嘘
ラルフは目尻を伝う夏帆の涙をそっと唇で吸い取る。


「泣かないで、夏帆ちゃん 君は僕に生きる希望を与えてくれたんだ」


「生きる……希望……?」


そう呟くと、唇がそっと重ねられた。


塩辛いキスだった。


「余命宣告を受けた時、同時に手術も勧められたんだ 難しい手術で、手術後元気でいられる確証はなかった 手術中に死んでしまうかもしれない それを聞いた時、僕は君に財産を譲ってしまえば、いつ死んでも構わないと思ったんだ ただ、ベッドで寝たきりで死ぬのは嫌だった」


夏帆は何度も首を振る。


嫌だっ!そんな話はしないで!


心の中で叫んでいた。


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