君のための嘘
玄関が開く音がして夏帆は我に返った。


ラルフが帰って来たのだ。


「お帰りなさい」


リビングに姿を見せたラルフの片手には白いスーパーのビニール袋がぶら下がっている。


「お土産 グレープフルーツが食べたいって言っていたから?」


「ありがとう」


ビニール袋を受け取ろうと手を伸ばしたが、ラルフはそのままキッチンへ入っていく。


「切ってあげるよ 食べるだろう?」


「食べる」


今日は今朝から胃の調子がおかしく、ムカムカしていた。


一緒にキッチンに入り、ラルフがグレープフルーツを切る様子を見ていた。


フルーツボウルに半分に切ったグレープフルーツを盛り、ラルフはその場でみずみずしい果実を先のとがったスプーンですくい、夏帆の口元に持って行く。


夏帆はにこっと笑い、口を開いた。


< 485 / 521 >

この作品をシェア

pagetop