君のための嘘
「……うっく……ラル――」
「シーッ……僕の心臓の音を感じる?」


夏帆の背中はラルフの胸に密着した状態で、少し不規則に鼓動している気がした。


夏帆は嗚咽を漏らしながら頷く。


「僕は今、期待感でワクワクしているんだよ 手術を受けることが出来たら、夏帆ちゃんと子供と一緒に居られる 向こうでの心臓移植手術の生存率はかなり高いから、僕は心配していない 移植が出来れば僕は生まれ変われる。そう信じているんだ」


夏帆の耳元で静かに話すラルフの声に迷いは見られなかった。


夏帆はコクンコクンと2回頷く。


私も信じなければ。ラルフの気持ちは強い。


「安定して、ドクターに了承を得たら来てほしい」


ラルフの唇が耳殻から耳朶までやんわり食んでいく。


「っ……う、うん 行くから 落ち着いたら行くからっ!」


夏帆はラルフの腕の中で動き、もどかしそうに自分から唇を重ねた。


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