君のための嘘
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スーツケースを引っ張り、到着ロビーがあと少しの所まで来ると、緊張で胸がドキドキと暴れはじめてきた。そのうるさい音は近くにいる人に聞こえてしまうのではないかと思えるほどだ。


霧生家の迎えの人に見つからないようにしなければならない。


育ててくれた両親を裏切っていいのかと、まだ心が揺れている。


見つかってしまえば、霧生家の言うなりになってしまうだろう。


そこまで強引に出来ない性格なのだ。


気持ちを抑えて、相手の言う事を聞いていれば可愛がってもらえると孤児院で学んだ。現に、養父母も夏帆が大人しく、真面目で、良い子だとなんでもやってくれたのだ。


夏帆は立ち止まり、どうしたら見つからずに空港を抜け出せるか考えた。


その時、日本人のツアー客と思われる団体が、スーツケースやたくさんのお土産をカートに乗せて夏帆の横を通っていく。


この人たちに紛れれば見つからないかもしれない。


夏帆はそう考えて、日本人ツアー客に紛れて歩き始めた。


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