君のための嘘
車から降りた小さな男の子が庭を駆けてきた。


その勢いに、桜の木から散り始めていた花びらが舞う。


「おーおばあちゃま!」


水色の着物の女性をめがけて駆け寄ってくる。


「貴(たか)くん、初めての幼稚園は楽しかったようですね?」


グレーの制服を着た男の子はラルフと夏帆の子供。


今日は貴臣(たかおみ)の入園式だった。


「はい おともだちもできました」


屈託のない笑顔は夏帆に似ている。


「それは良かったこと」


貴臣にとっては曾祖母。


現在霧生家の当主は深い皺のある顔を緩ませて言った。


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