君のための嘘
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1階の管理室で夏帆の指紋の登録を済ませると、ラルフは出かけて行った。


エレベーターに乗って、部屋の前まで戻って来た夏帆は緊張する。


本当に私の指紋でカギが開くの?


不安な気持ちで指をあてると、カギが開く機械音が聞こえた。


ドアが開き、ホッとして中へ入る。


やりかけだったキッチンの片づけをしてから、部屋の掃除を始めた。


掃除は料理よりは好き。


でもこの部屋は掃除のやり甲斐がないほど、綺麗だった。少なくとも、リビングはほとんど塵なんて落ちていない。


彼の寝室は無断で入るのは気が引けて近づいてもいないけれど。


どこもかしこもピカピカできれいな家。


どこか違和感を覚えずにはいられなかった。


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