君のための嘘
その言葉を聞いた美由紀は更ににっこり口元に笑みを浮かべると、逆に夏帆は泣きたい気持ちで、胸が鷲掴みされるような痛みを感じていた。


私……ラルフを……。


こんなにすぐに人を好きになるなんてこと、あるのだろうか……。異性を好きになったのはほんの数人、しかもハイスクールの時のバスケットボールやサーフィンのヒーロー的存在の男の子。彼らは憧れでしかなかったからわからない。


「夏帆ちゃん?」


ラルフの声に我に返ると、美由紀はいなくなっていた。


「僕たちも、行こうか」


「……はい」


ふたりはどういう関係なのだろう……。


夫とは幼馴染で、夫より親しそうな妻は、ラルフに好意を寄せているみたいだった。そして、ラルフも彼女が好きみたいに見えた。


マンションへ帰り道、夏帆の頭の中はラルフと美由紀のことでいっぱいだった。


黙って歩く姿を、ラルフが辛そうに見ていた。



< 96 / 521 >

この作品をシェア

pagetop