マリア
 マリアは原田が出した椅子に腰掛けると、なにから切り出していいのかわからず、部屋を見回した。このセンターの中でもきっと特別なのだろう。置いてある棚やカーテン、全てのものが高級感にあふれている。ただそれが病院で必要なものかといえば疑問だが。
「来ると、思わなかった」
 徳二郎の声でハッとし、彼を見た。徳二郎だ。たった一日しか会えなかっただけなのに、こんなにも寂しい思いをしたのは初めてだった。彼に触れたかった。マリアは椅子から立ち上がり、ベッドの脇に腰掛ける。そしてそっと徳二郎に接吻をした。唇が離れると、おでこを合わせ、瞳を閉じる。こうすれば、徳二郎の痛みがわかるような気がして。
「ごめん。心配させて」
 額を合わせたまま、徳二郎が言った。ゆっくり瞳を開けると、徳二郎もマリアの瞳をのぞき込むように見ている。顔を離し、マリアは笑って見せた。
「ううん。それより具合、どう?」
「さっき・・・検査が終わった。結果は・・・まだだけど」
 徳二郎は途切れがちに言う。
「マリア……僕のこと、聞いた?」
 徳二郎の問いにマリアは昨夜の原田の言葉を思い出した。
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