マリア
「待って。まだ話は終わってないわ」
 振り向いた原田は少し間を開け、小さな溜息をついた。
「何が、聞きたいんだい?」
「聞きたいも何も、徳二郎を返して」
 マリアが言うと、原田はハッハッハと声を出して笑った。
「お嬢さん。貴女は何か勘違いをしているようだ。先ほども言ったが具合が良くなれば彼は帰ってくるよ」
「うそ。だって今日家を出たときは何でもなかったわ。そう言って油断させて徳二郎を私の所へ返さないつもりなんでしょう」
 原田は困った表情を浮かべ、自分のあご髭をなぞりながらマリアを見つめた。
「確かに私は徳二郎が君の所へ行くことは反対だ」
 ほら、本音が出た。
「私は彼の主治医だ」
 それを聞いてマリアは驚いた。
「お医者さん?」
 ならば本当に徳二郎は入院している?
「ああ。しかし、徳二郎はどうしても君の所へ帰ると言っている。私は彼に弱くてね。君と一緒に居ることで、もしかしたら少しは気持ちが軽くなって気も晴れればと思ったんだが。結局彼は薬が切れても取りに来ないで発作を起こした。」
 原田の言葉を聞いて、マリアはショックを受けた。発作。やはり徳二郎はどこか悪いのだ。
「徳二郎は……どんな病気なの」
 聞くのは怖い。だが、マリアは勇気を出して聞いてみた。原田は先ほどよりも真剣な顔つきになり、一層不安がよぎる。
「徳二郎の病気は……」
 マリアは覚悟を決め、原田の言葉に耳を傾けた――。
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