マリア
抵抗する気配が無いのを感じて、男はマリアの口から手を下ろす。だが、まっすぐな瞳はマリアを捕らえて放さない。二人の視線が絡み合う。
もう、言葉は要らなかった。身体が感じる……求めているもの。二人の唇がゆっくりと近づく。磁石が吸い寄せられるように、時計の針と針が重なるように、自然と唇が触れ合った。
はじめは優しく、やがて激しく求める唇。なぜだろう。名前も年も、どんな男かも知らない。だのに全てを知っているような気がする。この唇も、身体に触れる指先も――。ほんの数分、いや数十秒の出来事かもしれない。でもマリアはこの時が永遠のように感じられた。
ふと、男の唇が離れる。ぼうっとしているマリアの脳裏に、カツン、カツンとヒールを鳴らす音が響いた。
「あした、またくる」
男はマリアの耳に伝言を残し、足早に点滅する明かりの向こうへ吸い込まれていった。
そのすぐあと、マリアの前で裏口のドアが開く。ミキがひょいと顔を出し、左右を確認してマリアを見つけると、八重歯を見せてにかっと笑った。
「マリアさん、お待たせ。さ、行こ」
急に現実に引き戻され、マリアは少し恨めしそうにミキを見た。
もう、言葉は要らなかった。身体が感じる……求めているもの。二人の唇がゆっくりと近づく。磁石が吸い寄せられるように、時計の針と針が重なるように、自然と唇が触れ合った。
はじめは優しく、やがて激しく求める唇。なぜだろう。名前も年も、どんな男かも知らない。だのに全てを知っているような気がする。この唇も、身体に触れる指先も――。ほんの数分、いや数十秒の出来事かもしれない。でもマリアはこの時が永遠のように感じられた。
ふと、男の唇が離れる。ぼうっとしているマリアの脳裏に、カツン、カツンとヒールを鳴らす音が響いた。
「あした、またくる」
男はマリアの耳に伝言を残し、足早に点滅する明かりの向こうへ吸い込まれていった。
そのすぐあと、マリアの前で裏口のドアが開く。ミキがひょいと顔を出し、左右を確認してマリアを見つけると、八重歯を見せてにかっと笑った。
「マリアさん、お待たせ。さ、行こ」
急に現実に引き戻され、マリアは少し恨めしそうにミキを見た。