今日降る雨、明日吹く風



やがて太陽が昇り 忙しい1日の始まりに誰もが顔を歪める










……ピ……ピ……ピピ……ピピ……ピピピピピッ






『……ん〜………ぁぁ……………結局寝ちまったのか…』




男は部屋の隅っこで鳴いている"ピッピ"の頭を叩き黙らせた途端に ハッと思い出し 青ざめた顔で洗面所に駆け出した



ドタドタドタドタドタッ







『……………んぁ!!?』






男は拍子抜けし変な声が出た

それもそのはず 洗面台の鏡の中にいたのは まるで何事も無かったように綺麗な額をした口をポカンと空けた男だったのである







『………そんな馬鹿な…、昨日あれだけ腫れ上がってたのに…、傷さえも無いじゃないか…』





男は嬉しいやら何やらで苦笑していた





しかしそこは人間なんだろう 数分経てば何も気にしなくなり

"俺は昔から治りが早い"

などという医者から言われた訳でもない根拠のない結論を出し 解決するのだ










『さて、行くとするか』


スーツをビシッとキメて仕事の準備をし 前日のドタバタ喜劇が嘘のように爽やかな表情で家を出た


もし 額に傷でも残ってようなら "こう"はいかなかったであろう



そして一歩また一歩とエレベーターへ愉快に歩く男は重大な事を思い出す




男『まずい……!!今日は重役会議で早めの出勤をしなくちゃいけないんだった…』



どうやら額の傷が気になり見事に忘れていたらしい



そして先程までの愉快な歩みは一変し、ドタバタと近所迷惑とも思える大袈裟な走りになる



そしてエレベーターのボタンを何度も押すが1階で止まっているエレベーターは上がってくる様子がない



男『なんだってんだ!?誰かが一階で止めてるのか?!』




さっきまでの“余裕”が無くなった男には一秒すら無駄にできる時間はない



男『クソッ…このままエレベーターを待つか…階段で一気にかけ降りるか…どうする…』



答えを出す間もなく男の足は勝手に動きだし階段をもうスピードで降り始めた







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