リアル




「旨かったです。ありがとうございました」


隆は食後に生野が買ってきてくれた茶を啜りながら生野に礼を言った。


「旨かったならよかった」


生野は嬉しそうに煙草に火を点けた。


一気に煙草の匂いが辺りに漂う。


そういえば、生野は食事中は煙草を吸っていなかった。


隆はそう思いながら、生野のくわえたたばこ目をやった。


「ん? ああ、飯が不味くなるから、食事中は吸わないんだよ」


生野の意外な言葉に隆は驚いた。


ベビースモーカーというのは、時も場合も関係ないものだとばかり思っていた。


「……彼女、いるんすね」


隆は何を喋っていいか分からず、思い付いたことをそのまま口にした。


先程、生野が言っていたことを思い出したのだ。


「ああ、いるよ」


生野は煙草から口を離して答えた。


「綺麗な人なんですか?」


それは薫か、とも思ったが、直ぐに違っていることに気付いた。


以前、薫が噂話を否定していたこともあるし、何より薫が料理をするようには見えない。


ここ程ではないが、薫の部屋の台所にもさした料理器具は置いてない。


「綺麗というか、可愛い、かな。まだ若いしな」


生野は答えてから、煙草を持参した缶の中に放り込んだ。


「何してる人? 婦警とかですか?」


「いや、カフェで働いてる」


そういう娘と生野が付き合っているという想像が出来ない。


生野に似合うのは、やはり薫のような女に思えてしまう。



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