リアル



当時、薫は二十七歳で、刑事の仕事に遣り甲斐のようなものを感じ始め、恋人である生野との仲も上手くいっている時だった。


ある男が殺人未遂で逮捕された。


名前は小田響、年は二十五歳だった。


童顔の、色素の薄い瞳が特徴的な青年だった。


薫は彼の事情聴取を担当した。


担当したといっても、メインは生野であり、薫は傍らについているだけだった。


小田が殺そうとした相手はまだ大学に入りたての少年だ。


殺人未遂といえ、彼の背後を追い、殴りかかった、というものだった。


暴力事件でなく、殺人未遂とされたのは現場に駆け付けた警察官が小田を取り押さえると、「離せ、殺してやるんだ」と叫んでいたからだった。


何故小田が彼を殺そうとしたのかというと、相手は小田の彼女を殺害したのだった。


か弱い女性を何度も殴り、そのまま死なせたのだ。


だが彼は政治家の息子であり、その事件は揉み消された。


そして、のうのうと生活していたのだ。


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