リアル
「何でも好きなもの頼んでね。あ、それとも適当に頼んじゃっていいかしら」
薫は大きいサイズのメニュー表を広げながら独り言のように早口で言った。
「適当に、でお願いします」
美緒は常に笑顔を携えている。
それは元からなのか、それとも維持をしているのか。
隆にはその判断は出来ない。
「好き嫌いとかは?」
「特にありません」
二人は隆には目もくれずに会話を続けていく。
弟はあくまで付属品。
そういった空気が流れているようだ。
「美緒さんにご兄弟は?」
一通り注文し終えたところで薫が質問した。
「一人っ子です。だから、兄弟って憧れるんですよ」
そう答えた時、美緒は初めて隆をちらりと横目で見た。
何の感情もこもっていない瞳は、まるで深い海の底を覗き込んだようだ。
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