リアル
「で? どんな感じなんですか?」
蒔田は柔らかい声のまま英治に訊いた。
この時点では何の会話をしているのかは全く分からない。
「少しずつではあるけど、上手くいってますよ。あと少しで完成、てもころまで来てますね」
英治の声は淡々としているようで、だが大袈裟にも取れる。
掴みどころがないような声だ。
「こそこそと計画してきたんです。こんなところでしくじるわけにはいきませんよ」
英治はそこで、く、と喉を鳴らした。
「彼女はお元気ですか?」
蒔田の質問に英治が答えるのには少し間があった。
「……どちらの?」
彼女、という単語を聞いて薫の脳裏に浮かんだのは美緒だった。
だが、英治の返答は思いもよらないものだったのだ。
「お嬢さんの方ですよ」
蒔田はそれに驚いた様子もなく返した。
まさか、と薫は思う。
まさかこの男は美緒と他の女性で二股を掛けているのだろうか。
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