リアル
人は生まれながらにして、人を殺してはいけないと理解しているのだ。
誰に教わらずとも、だ。
そして、殺人を犯す人間は生まれた時からその感覚が欠如しているのだ。
これは薫の持論だった。
全く同じ境遇になったとしても、殺人を犯すかそれを思い止まるかはそこで決まるのだとも思っている。
薫は隆の震える身体を再び自分の腕の中に戻した。
「……殺さなくてよかった」
隆がもしその犯人を殺していたら、明日から隆はここにはいれなくなる。
警察に捕まるだとか、そんな理由ではない。
隆は両親を殺した相手を殺したら、自ら命を絶つつもりでいたのだろう。
直接隆からそんな話を聞いたわけではない。
漠然とそう思っていただけだ。
そして、それは外れてはいない考えだろう。
そしたら、隆に会うことは二度と叶わない。
この胸に湧き上がる感情は一体何だろう。
失わなくてよかった。
この胸ははっきりとそう感じている。
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