リアル
リアル12
英治は珍しくきょとんとした顔をしている。
薫はそれが演技でないかどうか、神経を集中させて探った。
「ええと、美緒ちゃんの知り合い、なんですよね?」
突然、見ず知らずの女に呼び止められ困っている。
その表情にどうやら嘘はなさそうだ。
一度顔を合わせたことはあるのだが、どうやら英治の記憶に薫の顔は残っていないようだ。
「そうよ。ちょっと、嫌な噂を耳にしたものだから、つい声を掛けてしまったの」
薫は上品な仕草で言う。
こちらこそ、演技だというのを見破られないようにしなくては。
「嫌な噂、ですか」
やはり心当たりがあるのか、英治は眉をしかめた。
「尋ねづらいんだけど、貴方が美緒ちゃんと他の子で二股を掛けてるって……」
英治の眉がぴくりと動いた。
「美緒ちゃん、本当に貴方のことが好きだから、その噂が事実だとしたら私、許せなくて」
「……本当、ですよ」
英治は意外にもあっさりと口を割った。
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