リアル
「やっぱり、昼間のお姉さんだ」
男はにやりと笑った。
そこにいたのは、昼間、事件現場で薫が声を掛けた男だった。
まさか、後をつけてきたのだろうか。
薫は反射的に胸の前で腕を組んだ。
これは簡単に腕を掴まれない為だ。
彼が犯人である可能性は薄いと踏んだ。
だが、ゼロではない。
そうなると、油断は禁物だ。
「此処に住んでるんだ?」
男はアパートの建物を見上げた。
犯人である可能性がある男に住み処がばれてしまうのはどうにもいただけないが、咄嗟にはぐらかす言葉は出てこない。
薫が下唇を軽く噛むと、男は口を開いた。
「俺は一階に住んでる。今まで、会ったことないよな?」
男は一階の一部屋に親指を向けた。
此処で会ったのは偶然ということだろうか。
「……昼間はあまり外出しないから」
薫は近所迷惑にならぬよう、小さな声で答えた。
「そっか」
男はそう言い、唇の端を少しだけ持ち上げた。
何かを図っている。
それはそう思える表情だった。
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