リアル
薫はどうこの場から去るかを必死に考えた。
刑事であった期間は短い。
それが故に、危険から逃れる方法は身についていない。
「あのさ」
男が口を開いた。
薫は身構えながら、取り敢えず携帯電話を手に取ることにした。
気付かれないように然り気無く腕を下ろし、ゆっくりとジャケットのポケットに手を滑らせる。
それだけのことなのに、異様に緊張した。
「昼間の事件、何か分かった?」
「何故私に訊くの?」
薫は視線を男から逸らさないように心掛けた。
「お姉さん、警察関係かと思って」
「残念ながら違うわ」
薫が答えると、男は少し残念そうな顔をした。
だが、やはりそれは無表情に近い。
「……被害者の関係者なの?」
事件の経過を気にする者は犯人の他にもう一タイプいる。
それは被害者の関係者だ。
家族、友人、恋人。
それらは捜査状況を犯人以上に気にする場合もある。
犯人が早く捕まるように祈っているからだろう。
「違う」
男は静かに首を横に振った。
なら、やはり犯人か。
薫はポケットの中の指を動かそうとした。
「でも、犯人を探してる」
男の言葉に薫は目を見張った。
何故、ただの一般人が殺人事件の犯人を探す必要があるのだろう。
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