リアル
遠くからしていたパトカーのサイレンは近くなってきた。
ふぁんふぁん、という独特の音は、穏やかな眠りを妨げるもの以外、何物でもない。
この近所で事件だろうか。
それとも、誰かが悪戯で呼んだのだろうか。
雪穂薫はそんなことを思いながら、布団から頭を出した。
パートの時間まで、後三時間はある。
二度寝しようかとも思ったが、五月蝿いサイレンのせいで、どうにも眠気を削がれた。
薫は仕方無くベッドから這い出て、キッチンとも呼べぬ狭い空間へと足を運んだ。
異様に喉が渇く。
冷蔵庫に入っていた炭酸水を飲んでから、もう冬――乾燥の時期だということを思い出した。
この時期、二十代半ばを過ぎたくらいから、保湿クリームなしでは乗り切れなくなった。
薫は部屋の隅の棚にある保湿クリームに手を伸ばした。
昨年の今頃に購入したものだが、まだ使えるだろう。
薫はそう考えて、それを腕に塗っていった。
いかにも薬用、という匂いが鼻につく。
だが、香り重視のものは効能が弱いし、何より甘い香りをさせるような年齢ではない。
薫は肌が十分に潤ったのを確認すると、クリームを元の場所に戻した。
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