リアル
「被害者は坂口佳奈、二十一歳。派遣OL……か」
生野は捜査資料を眺めながら一人呟いた。
「死因は溺死と見られます。肺や気管に残る水は海水ですね。僅かに海藻なども見付かっています」
隣にした若月は手帳に書き込まれた事柄を述べた。
「抵抗した後はなし。だが、体内から睡眠薬の類い発見されていない」
生野は煙草の箱に手を伸ばし、そこから一本を取り出した。
輸入品の赤いラインの入った煙草が生野のお気に入りの煙草だ。
かちり、とライターで火を点け、一口目を吸い込んだ。
肺に煙が充満する感覚を味わってから、それを吐き出す。
辺りに紫煙が立ち込め、途端に靄がかかったような景色へと変わった。
「早く旨い煙草が吸いてぇな」
事件解決前の煙草は頗る不味い。
生野は後二口吸っただけで、煙草を灰皿に押し付けた。
「抵抗されずに溺死させる方法ね」
「どうやったんですかね? 衣服も特に濡れていませんでしたし」
若月は首を傾げた。
「それは、着替えでもさせたんじゃねぇの?」
生野は答えながら、二本目の煙草に火を点けた。
また煙が立ち込める。
「なら、犯人は被害者の自宅で殺害したということでしょうか?」
被害者の佳奈は一人暮らし。
だが、自宅を捜索した時、勿論部屋の鍵はかかっていた。
部屋の中に争った形跡もない。
ただ、洗面台には海水が張られていた。
辺りに海水が零れた痕跡も少しだけあった。
そこで殺された可能性が高い、というのが捜査班の見方ではある。
だが、どうやって。
顔見知りの犯行だということだろうか。
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