リアル
気付けばサイレンは止んでいた。
遠ざかったのではないとすると、やはりこの辺りで何かあったのだろう。
殺人事件、強盗……薫はそこまで考えて思考を止めた。
考えたって仕様がない。
自分はただの一般人だ。
出来ることは精々、野次馬くらいなもので、事件に関わることなど到底無理なのだ。
薫は溜め息を吐きながら、ベッドに腰を下ろした。
古いベッドは腰を下ろすだけで、嫌な音を立てて軋む。
そろそろ買い換え時だろうか。
薫は通帳の残高を思い起こしながら、そう考え、すぐに首を横に振った。
正直、そんな余裕はない。
運悪く、今月はアパートの更新月だ。
金が飛ぶ時に、ベッドなどというものを買えるわけがない。
限界まで使って、それで駄目なら中古で探せばいい。
薫はベッドから立ち上がり、着替えをした。
どうにも気になるのだ。
パトカーが近所を走るなど、珍しいことではない。
だが、やけに今日は何かが引っ掛かるのだ。
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