リアル
この店を選んだのは失敗だっただろうか。
薫はメニュー表を開きながらそう思った。
店内にいるのは、若い女性二人組と、自分と同じくらいの男が一人だけだ。
「俺、オムライス」
隆は水を運んできた老婦人に言った。
「私も同じものを」
薫は料理を選ぶのが面倒臭く、隆の注文に乗じた。
老婦人は人の良さそうな笑顔でお待ち下さいね、と言い厨房に下がっていった。
夫婦で経営しているのだろうか。
古いながらも店内は綺麗にされている。
窓辺には可愛らしい人形が数体飾られているし、カウンター席には美しい花が置かれている。
繁盛している店というより、常連客のついた店というところだろうか。
薫は店内を見回しながら、水のグラスに手をつけた。
二つ離れた席にいる男が自分を見ていることにも気付かずに、暢気に料理が運ばれてくるのを待っていた。
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