リアル
「やあ」
扉を開けた先にいたのは生野だった。
隆はそのことに驚き、言葉を失った。
生野は隆がここに住んでいるのは知っているし、訪れるのは別に不思議なことではない。
だが、そこに理由は見付けられない。
「もう夕飯食った?」
生野は火を点けていない煙草をくわえたまま言った。
隆は言葉の意味を頭の中で考えた。
いや、考えずとも分かることではあるのだが、生野の口から出た言葉だというのに驚いたのだ。
「え……いや、まだですけど」
飯は昼に定食屋で食べたきり、口にはしていない。
「それはよかった」
生野は言いながら、ずかずかと部屋に乗り込んできた。
「あ……え……ちょっと」
その生野の様子に隆は顔を左右に振った。
生野はそんなことお構い無しに台所部分へと足を運んだ。
手にはスーパーの袋が持たれている。
「おー、見事に何もないな」
生野は台所内を見回しながら呟く。
そこにはマグカップとグラスに少しの皿、そして片手鍋が一つあるだけだ。
「何で鍋だけあるの?」
生野は袋の中を漁りながら隆に訊いた。
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