∮ファースト・ラブ∮
『なあ、久遠(くおん)。
お前だけが幸せになろうとか思ってないよな?』
彼女が転校した後、ぼくは尚吾と話をした。
『人の彼女の心を奪うだけ奪ってさ、
おかげで香織はお前が離れた今でもお前を思っているんだ。
俺と香織の関係上は恋人だが、香織はお前に囚われたままだ。
なあ、香織の心を返してくれよ。
俺に返してくれよ!!』
そう…………言われた。
香織とうまくいっていない尚吾は今も根に持っている。
ぼくを恨んでいる。
手鞠ちゃんを、あんなふうにさせるのは、ごめんだ。
ぱちん!!
突然、乾いた大きな叩く音が聞こえた。
ぼくは我に返り、紀美子に少し近づく。
手鞠ちゃんは……右の頬を叩かれたようだ。
顔はうつむいている。
泣いているのだろうか。
泣かせたのは紀美子ではない。
ぼくだ。