∮ファースト・ラブ∮

「だってさ、1組の井上 香織みたいな奴だったら嫌じゃん。


彼女って、自分の意見を押し殺すような性格でしょ?

手鞠ちゃんも……ごめんね。

そんな娘だと思ったのよ」





紀美子先輩があたしの頭を撫でてくれる。



あったかい。


純粋に、そう思った。


紀美子先輩は、とっても優しい先輩なんだ。



「……久遠が傷つくの、もう、見ていられなかった。


でも、安心した。


手鞠ちゃんは違ったみたいね。


……よかったよ……本当に……」



紀美子先輩は、そう言って目を伏せた。


紀美子先輩って、本当に麻生先輩のことを想っているんだね。



あたしの心はとっても複雑だった。


麻生先輩は、こんなに好かれているんだと思えば嬉しい。

でも……好きっていう想いはあたしだけじゃない。

紀美子先輩も……麻生先輩の側にいる女の人たちは、みんな麻生先輩が好きなんだ。

そう思ったら、切ない。




それは……麻生先輩があたしだけ想っているひとじゃないって実感させられるから。

麻生先輩のいいところを知っている人たちがたくさんいるってことだから。




あたしだけが……あたしだけが麻生先輩のいいところ、

優しいところを知っているんじゃないだ。




< 112 / 278 >

この作品をシェア

pagetop