∮ファースト・ラブ∮
泣いて、麻生先輩の名前を言った時だった。
縛っている腕が……さっきより強い力になった。
でも……でも、その腕…………。
あたし、いったいどうしちゃったんだろう?
怖いって思わなくなったの。
それに、それにね、あたしを縛っている人。
暴力もふるってこない。
凶器も出してこない。
何も…………してこないんだ。
ただ、その人は無言であたしを腕で拘束するだけ……。
「…………………?」
意味がわからない。
あたしは後ろを振り向いて、縛ってくる人を見ようと体をひねった。
「動かないで…………。
頼むから…………。
もう少し……このままで……」
「!!」
それは、鼻にかかった優しい声。
穏やかな…………人魚の姿だったあたしを助けてくれた……麻生先輩の声だった。
……せんぱい。
ドクン。
そう思えば、あたしの心臓は、ひとつ。
大きく跳ねた。