∮ファースト・ラブ∮
そう思ったら、涙は引っ込んだ。
…………麻生先輩、紀美子先輩のことを葛野先輩から聞いて、
それであたしのことを心配して来てくれた?
葛野先輩みたいに来てくれたの?
あたし……自惚(うぬぼ)れていいのかな?
ねぇ、先輩。
麻生先輩にとって。
あたしは大切な存在になってるって、そう思っていいのかな?
いいですか?
あたしは麻生先輩のはく息を耳で感じながら、そっと目を閉じた。
「……ちゃーん。
おーい!!
手鞠ちゃーん」
「手鞠ちゃーん」
耳の奥では、葛野先輩と紀美子先輩があたしを呼ぶ声が聞こえる。
多分、いきなり姿が見えなくなったあたしを探してくれてるんだ。
でも…………でも……もう少し。
もう少し…………。
麻生先輩の体温を感じていたい。
もう少しだけ…………。
麻生先輩が近くにいるってことを感じるために、
目を閉じ続けた。
でも、あたしも麻生先輩も……その時は誰一人として気づかなかったんだ。
やがて襲い来る、黒い影の姿に…………。