∮ファースト・ラブ∮

「全部?」


「全部」


彼女の言葉に頷けば、大きな目をさらに大きく見開いて、

信じられないと言うように見つめ返された。


「きっ!!」

…………き?

「紀美子先輩を叩いたとこも?」


その言葉でぼくは手鞠ちゃんが何を言いたいのかをようやく理解した。




……ああ。

なんだ。

そういうことか……。


どうやら彼女は紀美子を叩いたところを見られて幻滅されやしないかと思ったらしい。


「手鞠ちゃんは勇ましいね」

「ぐ…………」

ぼくから視線を逸(そ)らそうと、顔は下へと力を加える。


だが、彼女の顎を掴んでいるから、それは難しい。



ぼくから目を離そうなんて、そんなこと許すわけないじゃないか。



「げ……げんめつ……しました?」


俺を見つめる瞳は少し潤んでいる。

泣きそうだ。



この状況で何故そう思うのか、ぼくの方が訊きたいよ。


「幻滅していたら、君をこんなふうに抱きしめると思うかい?」




ああ。

もうだめだ。



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