∮ファースト・ラブ∮
心配そうな顔が間近に見えた瞬間、女の人が誰なのかわかった。
藤原 紀美子(ふじわら きみこ)先輩だ。
「どうしたの?」
何度も何度も、先輩はそう言って気を遣ってくれる。
でも……でも無理。
今は何も話したくない。
麻生先輩に振られたなんて……麻生先輩を好きな人に言えるわけない。
あたしは紀美子先輩を振り払って走りぬけた。
「手鞠ちゃん!?」
「……っふ…………」
嫌われた。
側にもいられない。
これで残りの期間、もう……泡になるのを待つだけになった…………。
大きな歩幅で走った足は、校舎を抜けたところから少しずつスピードが落ちていく……。