∮ファースト・ラブ∮
一度こうと決めたら、あたしの行動は素早い。
グラウンドから教室に向かうその足であいちゃんと別れて3年1組の教室の前にいた。
「やっだ!!
手鞠ちゃんじゃない!!
どうしたの?」
知った人でもない香織さんを呼ぼうとしたんだけど……やっぱり緊張して踏みとどまってしまう。
そんな中、藤原 紀美子先輩があたしの前に立ってくれた。
「あの……香織さんいますか?」
ほっと一息ついて紀美子先輩に言えば、紀美子先輩の顔は曇ってしまった。
「手鞠ちゃん……まだ麻生のこと…………。
あんなに酷いことをされたのに?」
麻生先輩に振られた時、泣きべそをかきながら紀美子先輩にぶつかったから、きっと、紀美子先輩は何であたしが泣いていたのか知っている。
紀美子先輩なら、麻生先輩にどうしたのかと問いただしそうだ。
そして、そのことであたしが今ここまで足を運んだってことを彼女は知っている。
たとえ、あたしのことを想っていなくても、あたしが好きな麻生先輩が、この地球(ほし)で、あたしじゃない人とでもいいから……せめて幸せになってほしいから……。
その想いが紀美子先輩にも伝わったんだと思う。
あたしは言葉にできなくて、コクンとうなずいた。
紀美子先輩は優しく頭をひと撫でしてくれてから、香織さんを呼んでくれた。
幸い、今は尚吾さんがいなかったみたい。
少しほっとした。
できれば、尚吾さん抜きで、香織さんの本音を聞きたかったから。