∮ファースト・ラブ∮
「あたし、1年5組の華原 手鞠(かはら てまり)っていいます。
麻生 久遠(あそう くおん)先輩、好きです。
付き合ってください」
季節は5月。
緑色の葉っぱがいっそう深くなるころ。
朝のホームルームがはじまる前の時間。
緑ヶ丘高校の裏庭。
真っ直ぐ先輩の前に置いた両手の中には、
昨日、寝ないで一生懸命書いたラブレターがある。
頭を地面に落として、どうか受け取ってほしいと心の中でお願いする。
もし、あたしの、この告白が拒まれれば、
あたしは今日の夜に泡になってしまうだろう。
いやだ。
たとえ、泡になって消えてしまうという結末は変わらなくても、
こんなに早く消えてしまうのはさすがに悲しい。
…………どうしよう。
いくら麻生先輩だからって、あたしの想いを受け入れてくれるとはわからないのに……。
早まったことしちゃったかな…………。
なんて自己嫌悪してもしょうがない。
やってしまったことだから。
でも、それでも受け取ってもらえないと思えば悲しい。
だからあたしは、必死に地面を見つめて願っていた。