∮ファースト・ラブ∮
「あ、綺羅(きら)ちゃん」
彼女が後ろを振り向いた先、そこには長身の男性が立っていた。
漆黒ともいえる黒髪は、手鞠ちゃんの艶やかな髪を思い出させる。
力強い瞳の輝きもまた、手鞠ちゃんと同じものだった。
年齢は目の前にいる女性と同年齢くらいだろうか。
この男性はおそらく、手鞠ちゃんのお父さんだろう。
彼の容姿から手鞠ちゃんの面影を見たぼくはそう見当をつけるのに、そこまで時間はかからなかった。
「あなたは……麻生(あそう)くんですね」
どうやら彼女がぼくの言葉を否定しなかったということは、
手鞠ちゃんのお母さんに間違いはないということだろう。
「はい」
ぼくは彼女の言葉に頷(うなず)いた。
「手鞠ちゃんはいますか?」
ぼくの言葉に、ご両親は目配せをし、顔を曇らせている。
やはり、手鞠ちゃんの身に何かあったのだろうか。
ふたりのご両親の雰囲気から、読み取れるのはそれだけだった。
ご両親に会って、ぼくの妙な胸騒ぎは治まるどころか、いっそう強くなるばかりだ。
「手鞠ちゃんに何かあったんですか?」
言葉は掠(かす)れていて聞き取りにくいものになった。
それだけ、ぼくは手鞠ちゃんのことが心配なんだ。
彼女の身に何かあったということを考えれば、
胃は竦(すく)みあがり、心臓は張り裂けそうに痛みはじめる。
ぼくは無意識のうちに心臓がある部分の服を皺になるまで強く握りしめていた。