∮ファースト・ラブ∮

「わたしは手鞠の父親の綺羅だ。

隣の彼女は妻の百合。


…………まだ時間はあるな。


上がってくれないか?」



やはりこの男性は手鞠ちゃんのお父さんに間違いはなかったようだ。

彼はぼくに自己紹介をしてくれた。


「ぼくは、麻生 久遠と申します」

丁寧に一礼すると、自分で名を名乗った。



綺羅さんは、名乗ったぼくに頷(うなず)き返すとシルバーの腕時計で時刻を確認し、ぼくを家の中へと招き入れた。



それにしても……。

手鞠ちゃんのお父さんの言葉が俺の中に引っ掛かりを覚えた。



『時間はある』とはどういう意味だろう?


『学校がはじまる時間』とは少し違う意味だと思った。


言葉のニュアンスが……とても重々しかったからだ。





それに、手鞠ちゃんのご両親は、ぼくが訊ねた、

『手鞠ちゃんはいますか?』の問いには答えてくれてはいない。




そのことと、『時間はまだある』という言葉と、

何か関係しているのではないだろうか。




ぼくも自分の腕時計で確認する。

時刻は7時30分過ぎだった。






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