∮ファースト・ラブ∮

「いいえ。

手鞠は、今もあなたが好きですよ?


だから……あなたには、わたしたちのことを理解してほしいと思ってる」



テーブルの上に置いているぼくの右手を、百合さんはそっと上から包み込んでくれた。


気持ちが少し、楽になる。


「わたしたちは……百合と手鞠は、人魚一族の生き残りなんだ」



「!!」

今……綺羅さんは、なんと言ったのだろうか?




ぼくは自分の耳を疑った。


『人魚』

だって、その生き物は空想の世界にいるものだ。

けっして、現実世界にいるものではない。


だが、冗談ではないようだ。


綺羅さんと百合さんの表情は、とても苦しそうだった。



「信じられない話だろう?

わたしも、百合からこのことを聞く前までは、

架空の存在でしかないと思っていたからね。



だが、君は違うだろう?


君は、人魚がこの世界に存在するということを知っているハズだ」



…………それはどういう意味だろう?




まるで、綺羅さんはぼくが人魚と会ったことがあると言っているようだ。




「………………?」


「思い出してほしい。

2年前の……猛暑だった夏の日のことを――――」




< 212 / 278 >

この作品をシェア

pagetop