∮ファースト・ラブ∮
「わたしは……人魚姫を人間にした……そして――――。
人魚一族が人間になるための条件を創造した、魔女の末裔」
男性が最後の言葉を放った直後、強い風がぼくたちに向かって吹いてきた。
「彼女の魂は今、死と生の狭間で彷徨(さまよ)っている。
彼女を助けられるのは、君しかいない。
彼女の魂に呼びかけてあげて――――」
強風の中でも男性の声は確かに聞こえた。
ぼくは、強風に手鞠ちゃんを持っていかれるのではないかと思い、強く彼女を抱きしめる。
もう、置き去りにされるのはごめんだと、切(せつ)に思った。
やがて強風はおさまり、再び男性がいた方向を見れば、彼の姿はなかった。
あるのは、無限ともいえる広大な海があるのみ――――。