∮ファースト・ラブ∮

「やめてください。

救われたのは、ぼくなんです。

……手鞠ちゃんは…………手鞠ちゃんがいなければ、今のぼくは居なかったんですから……」


手鞠ちゃんが強い意志を持つことの意味を教えてくれたんだ。


思いを貫くことが、どれほど大切なことかを……教えてくれたんだ。



実感すれば、手鞠ちゃんをより愛おしく思えてくる。



この客間から手鞠ちゃんのいる台所までの、たった数メートルしか離れていない距離が、まどろっこしく思えてくる。



そう思って台所からこの客間を隔てている襖(ふすま)を見つめれば、ふたつの足音が聞こえてきた。



パタン。

襖が開いた先には、百合さんがおぼんを持ってこちらへと入ってきた。

その次に、手鞠ちゃんも続く。



百合さんは綺羅さんの隣に座って、夕食に盛る器を机に並べはじめる。

手鞠ちゃんもそれにならって皿やら湯のみやらを並べていく。



今まで殺風景だったテーブルの上には、にぎやかな夕食が並んだ。



「今日はね、シチューだよ」

手鞠ちゃんは満面の笑顔でぼくに話しかけてくれる。



かわいい。



夕食よりも手鞠ちゃんが欲しいと思ったのはいうまでもない。



まあ、そんなことはさすがのぼくもご両親の前では言わないが――――――。


そんなことを知らない彼女は、ぼくの隣にちょこんと座った。

にっこりと、また笑いかけられる。





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