∮ファースト・ラブ∮
「お、おはようございます」
やっと挨拶を交わしたあたしの手は、ちょうどキスマークがあるところ……一番めのボタンをギュッと握りしめていたりする。
「百合、行って来る」
「はい。綺羅(きら)ちゃん、いってらっしゃい」
お母さんはお父さんに黒いカバンを渡した。
「手鞠ちゃん、ぼく達も行こうか」
麻生先輩があたしに歩み寄ってくれて、にっこり微笑んでくれる。
「…………はい」
先輩…………顔、近いデス。
昨日、鎖骨にキスされたこととかが妙に頭の中で映像化されてきちゃう。
恥ずかしくなって思わず麻生先輩から顔を逸(そ)らしちゃった。
「いってらっしゃい。
綺羅ちゃん、手鞠ちゃん。
麻生くん、手鞠ちゃんをお願いします」
お母さんの声であたし達はそれぞれ向かうべき場所へ足を向けた。
「手鞠ちゃん…………」
それはお父さんと別れて少ししてから。
麻生先輩の鼻にかかった優しい声があたしの耳に入ってくる。
だけど……まだ直視できなくって下を向いたままだったりする…………。
右手も相変わらず一番上のボタンを触っている。
「なんですか?」
声は緊張して震えてしまう。
そしたら……急にあたしの目の前が暗くなった。
思わず上を向いた瞬間、あたしの口は何かに塞(ふさ)がれた。
「!! んっ!!」
麻生先輩に……キス…………されていたんだ。