∮ファースト・ラブ∮
先輩の視線をたどる。
木と木の間。
そこには、女の人と男の人が肩を寄せ合って通り過ぎていくのが見えた。
遠巻きで顔はよくわからないけど、女の人の雰囲気は少し、儚いような大人しい人のようだった。
男の人は、麻生先輩と同じくらいのすらりとした身長の人だ。
学年は、多分、三年生じゃないかな。
「…………香織(かおり)」
ぼそりとつぶやく先輩の声が聞こえた。
その声は、とっても悲しそうで、苦しそうな声だった。
あたしは先輩の表情が気になって上を向けば、
先輩の顔は一瞬翳(かげ)りを見せたものの、すぐにいつもの笑顔になっていた。
先輩?
まさか、あの人が好きなの?
でも、どうして違う女の人たちといるの?
あの男の人は誰?
どうしたの?
なんで、そんなに悲しそうな顔をしたの?
香織…………先輩、呼び捨てでそう言っていた。
その人と何かあった?