恋愛ウラナイ
多分馬鹿がつくぐらい生真面目で真っ直ぐな人なんだとわかる。

そして教師という職業がすごく好きなんだということも。

何事にも真剣すぎて空振ってる感があるけれど、そこがまた素敵に思えた。


「先生格好いいです!先生って感じがします!」


思いのままに口を開くと明らかに馬鹿な発言だと自分でもわかるものが飛び出した。

思わず赤面すると、


「…先生だ」


と、苦笑というより照れ笑いみたいなものが返されて、どきっとした。

いつも無表情な副担任の微笑みを見る事が出来たことを自慢したくなると同時に、先生がこんな風に笑う事を誰にも知られたくないと…そう思った。

そんな自分に、戸惑う。

なんだかすごく恥ずかしくなって、先生の顔が見れなくなった。

ペンをもつその手だけを追う。


指、長い。


先生は。

この、目の前の人は。

男の人、なんだ。


今更そんなことに、また胸が騒いだ。


「…さて、だいぶん歴史は頭に入ったか?」


その言葉にすぐに頷くことができないのは、歴史がわからないからではなく、この時間が終わるのが嫌だからだと気づいていた。


「多分…」


かろうじて曖昧に返すと先生は心得ていたように一枚の紙を目の前に置く。

「?」

見てみると、それは手書きのテストだった。

さっき教えてもらった所ばかりの問題を見ると、私を教える片手間に即席で作成してくれたのだろう。


「確認試験だ。やりなさい。こうして知識は自分のものになる」


………。

………………。

………………ええー…。


と、いう顔をしてしまったのだろう。

先生が再び凶悪に微笑んだ。




「……やれ」




う…。

うう……。

私は文句も言えないままにそれに取り組む事になる。

私が渋々問題に取り掛かりはじめると先生は、


「少し離れる」


と言って席を立った。

職員室に用事でもあるのだと考え、


「はーい」


と軽く返すと、


「『はい』だ。伸ばさない」


とピシャリとたしなめられる。


「…はい…」


いつもの様に言い直すけど…。

妙な事に私は、いつもと違ってその注意が嬉しかった。

変なの。


自分でも、そう思う。
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