恋愛ウラナイ
「すぐ戻る。カンニングしないように」


やっぱり生真面目にそう言って出て行く先生を見送って、私はそれから問題に戻った。

先生の教え方がよかった為だろう。

正直、満点をとる自信がある。

即席で作られたテストに並ぶ先生の字をそっと指でなぞって、たったそれだけのことでドキドキしている自分に何度も『ばっかじゃないの!?』と突っ込む。

…うん。

馬鹿かもしれない。

大きく息を吐き出し自分の中に芽生えたものを認める。


先生。

私、先生が好きになりました。

ひとりの、男性として。


窓の外はまだすごい豪雨で雷まで鳴っているけれど、この天気じゃなかったら私はここにいなかったと思うと最上の空模様に思えた。

でも傘はないし、試験終わったらどうやって帰ろうかな、などと思いながら次の問題にかかろうとすると、携帯が震えた。

母からメールだ。

この豪雨に娘を心配し、迎えに来てくれるつもりなのだろうかと期待して開く。

そして………驚愕した。


【宝くじ、あんたの書いた数字ものすごい額当たってる!!】


……も、

ものすごい額って
お母さん、

いくらなの?


絵文字大好きな母がひとつも絵文字を入れられなかった所を見ると、私の小遣い額でないことは確かなようだ。

すごいじゃないか。
私。

家に帰ったら英雄だよ。

…でも家に帰るまでにずぶ濡れでひどくみすぼらしいことになりそうだけれど。

財布の中身は42円なのにな、と、なんだか笑えながら問題を解く。

そしてふと、思った。


あれ?

これって。

あれ?


携帯占い、それなりに当たって…


「できたか?」


後ろから話し掛けられ飛び上がるほど驚く。


「も…もう、少しです」


いつの間に帰って来たんだろう。

どきどきする。

ちょっと、心臓に悪い。

低いその声に、お腹あたりがぎゅっとなった。

膝が震える。
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