恋愛ウラナイ
そんな動揺を振り払うように、私はわざとふざけてみせた。


「先生、この試験で高得点取ったらご褒美として家まで送ってください」


先生は訝しそうに私を見つめる。


あ。

ダメだ。

踏み込みすぎた。

…嫌われる。


ズキズキとドキドキを持て余しながら私はなんとか笑ってみせる。


「な…なんて、冗談…」

「もとよりそのつもりだ。他の願いにしなさい」


……え?

ぽかんとしてしまった私を、先生は真っ直ぐとらえる。


「警報が出ている。こんな中ひとりで歩いて帰すのは危ない。当然だろう」


お、

送って
くれるんだ。

いや、それより、

『他の願いにしなさい』って

言った。


私が勝手に言っただけなのに、

ご褒美、くれる気なんだ。


そんなの、送る事をご褒美にしてしまえばよかったのに。

始めからそのつもりだったからって。

真面目な人だから。


どうしよう。

どうしよう。
どうしよう。


自分でふっといて、嬉しくて恥ずかしくてドキドキしすぎて

頭、
働かない。


「じ、じゃあ…何か飲みたいです」


どうにかそう捻り出すと、


「それもさっき買ってきた」


と言って、机にパックのミルクティーを置かれる。


「他の願いにしなさい」


置かれたミルクティーを見つめながら、私は耳鳴りがする程に緊張していた。


もう。

この人。

どうしろっていうんだろう。

どうしてこんなに急激に、

私の心奪っていくんだろう。


雨なんか
止まなければいい。

時間なんか
進まなければいい。

この瞬間が
終わらなければいい。

心臓だけが
馬鹿みたいに時間を刻んでいる。

めまいが
する。


「じ…じゃあ…」


奥歯が、震えた。


「また…こうして…勉、強…」


だめだ。

赤面、するな。

耳、熱い。

だめだ落ち着け。

軽く。

軽く言わなきゃ。


「教えて…くださ…い…」


軽く言わなきゃ、ばれる。


私の望んでいる事が勉強じゃなくて、先生とこうして二人になりたいことだって、

ばれる。
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