光の先に…
次の朝
レクシスは重い気持ちのまま目が覚めた。
「あれ…明希がいない…?」
隣で寝ているはずの明希の姿はそこにはなかった。
触れてみると、まだ温かみが残っていた。
明希がここから出てまだ時間は経っていないようだ。
レクシスは着替えないまま下へ降りた。
「おはよう、レクシス」
父の声が聞こえた。
「おはようお父さん。…明希は?」
下にも明希の姿はなかった。
「あぁ、明希なら走りに行ったよ」
レクシスは首を傾げた。
「走りに…?」
風を切り、ただただ前に進む。
無我夢中で走り続ける明希。
夜に沈むだけ沈んだ。もう次は上がらなければいけない。
このもやもやする気持ちを振り払わなければ…。
明希はいつもそうだった。
迷いや何か心に引っかかる事があれば、いつも走っていた。
明希は頭を使うのが苦手だから、こうして走るしか気を紛らわす術がなかったからだ。
「はぁ…っはぁ…っ、ここは…」
いつの間にか一昨日レクシスに連れて来てもらった、桜の木の場所まで走って来ていた。
森の前に一本、ポツンと立っているこの桜。
何故、この桜を植えた女性はここに植えようと思ったのだろうか。
タッ…タッ…タッ…
誰かが歩いて来る音。
振りかえってみると、そこにはレクシスがいた。
「レクシス…」
「ここにいたんだね、明希」
レクシスは落ち着いた表情で桜に前に立っている明希を見つめた。
「…大丈夫?」
明希は俯いた。
まだ気持ちは“大丈夫”の域には達していなかった。
「正直に言うと、まだ引きずってる…かな」
「そう…」
「…レクシスは…?」
明希の質問にレクシスは首を振った。
「まだ、心の整理がついていないわ」
ザァァッと風が吹く。
一拍置いて、レクシスが口を開いた。
「さ、帰りましょう。父さんが朝食を作っているわ。お腹が空いてちゃ、元気になれないわよ」
「…うん、そうだね」
明希は頷き、レクシスとともにログハウスへと歩いて行った。