フェードアウト
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Mail System Error - Returned Mail
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次のあて先へのメッセージはエラーのため送信できませんでした。
送信先メールアドレスが見つからないか、…………
携帯電話に添えていた指が、さっと白くなっていくように感じた。
メールの最後には、薫のアドレスだったアルファベットが並べられていた。
深い意味を持って、選ばれ、順番に並べられたはずのアルファベット。
それらがもう意味を為さないのだと気づくのに、十数秒かかった。
体の芯を、下から上に冷たい感覚が走る。
きっと、これは何かの間違いだ。
そうだ。メールだけが手段ではない。
電話して聞いてみようか。
某SNSサイトからもメッセージを送れる。
私たちはまだ繋がっている。
けれど、私は結局どの手段も選ばなかった。
怒ればいいのか、泣けばいいのか。
どう行動すれば正しいのかわからなかった。
誰かに問いただしてみようかと衝動的に思った。
これはどういうこと?
私は怒っていいの?
まだすがりついてもいいの?
でも、そんなことをしても意味がないと、頭のどこかで理解していた。
私はただ、この現実を受け入れるべきなのだ。
薫と過ごすうちに、いつのまにかそうすることが身についていた。
何がなんでも繋がっていたいと願うのは君のエゴだ。
薫ならそう言うだろう。
それでも、もう一度だけ確かめさせてほしい。
私は送れなかったメールを再送信し、すぐにエラーのメールを再び受け取った。
息を静かに吐き出して、そっと携帯電話を閉じた。
引き際だと思った。
私は足掻くことをやめた。
ジタバタせず受け入れる。
きっと薫もそれを望んでいる。
私はフェードアウトされたのだ。