フェードアウト
「社交辞令は嫌い」
薫の言葉に、私は即座にキーボードを叩いた。
深夜。
みんなが次々に寝オチして、とうとう2人っきりになったチャット掲示板で。
「んじゃ、明日また」くらいの感覚で、薫は言ってのけたのだ。
「春になったら会おう」と。
「どうして?」
薫は、弁解することもなく、私がそう言い放った理由を尋ねる。
「みんなそう。連絡ちょうだいだとか、今度遊ぼうって言っといて、いざ連絡したら“忙しい”か無視かどっちかだよ」
勢いよく叩きすぎて、キーボードがガチャガチャ音をたてる。
本当はもっと、滑らかに叩きたいのに指運びに無駄が多いのだ。
そう考えを巡らせているうちに、そうだね、とだけ薫から新しいコメントがあった。
そうでしょ?と私はひとり頷く。
「最初から言わなきゃいいのにさ」
そしてまた、次の言葉を待つ。