フェードアウト
薫は一拍おいて、

「でも、僕は社交辞令を言ってもらえるて素敵なことやと思うな」

と言った。


「どうして!?」

今度は私が聞き返す番になった。


「社交辞令っていうのは、希望や願いを伝えるものやからさ」

「さっぱりわかんない」

一蹴すると、薫は待っていたかのように、もう少し説明してくれた。


「例えばな、別れがたいけど別れなあかんときがあるやろ。そういうとき、もう少し話したいな、また会えたらいいのになって気持ちを伝えるときに、僕はつい言うてしまう。

たださよならするのは味気ない。機会があればいいですね、くらいの意味合いなんやわ」


ふうん、と私はキーボードを打つ手を止めた。


つまり、今は私に会いたいけど、本当に会うかどうかはまた別の話ってことか。



「でも私は期待させることは言いたくない。だから、薫も私には言わないで」

私がそう返事をすると、わかったよ、とだけ薫はよこした。


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