3つのナイトメアー
三十代にして新しく刊行される教養メジャー雑誌の編集長に抜擢された父
は、多忙を極め、家に帰る時間が大幅に遅くなった。
そんなある日、父は、目黒のマンションに一人の美しい女の人を連れて来
た。女優といっても通りそうなほど華やかなオーラに包まれたその女の人は、
なんと父の姉富美伯母さんの、夫のいとこにあたるという。父が際立つ美貌を
見込み、姉のつてを頼って、当時大学院生だったその女の人を、雑誌の創刊号
の表紙モデルとして起用したのだ。
その人は、まず母にあいさつをした後、にこにこと笑いながら私に握手を求
めた。
「あなたが恭子ちゃんね。可愛らしいこと。お父上が自慢するだけのことはあ
るわ。私は、可南子っていうの。みんなは、カーコって呼ぶのよ。カーコ姉ち
ゃんって、呼んでもらえたら嬉しいな」
可南子の一番の特徴である、アーモンド型の黒目が勝った大きな瞳に吸い込
まれそうに